先日、私がついに悪猫プーを成敗するという愉快な事件が起こりました。私のタイトルのつけ方的に、強い言葉を使いつつツッコミ待ちをするときは「?」「!?」などとネタバレをするのに、今回は「!!」という時点で、リアルに成敗したのです。
その夜は、うちの近所で、なぜか猫どもが何度も遭遇しては、喧嘩を繰り返していました。うるささのあまり、私も庭に2度出て行って追い払いましたし、出て行ってみると現場がうちの庭ではなくご近所だったために立ち入れず、その後しばらくするとその家の住人が出てきて追い払った様子が察せられる…ということも含めれば、片手の指では足りなくなるような夜でした。
ところが、またしても近いところから、2匹の猫の鳴き声が聞こえてきました。しかも、1匹の声は明らかに戦闘モードなのですが、もう1匹の声は「ナーオ、ナーオ!」とまるでメス猫に媚びているような情けない声。
「ああ、あいつか…」
本人、もとい本猫は戦闘モードのつもりなのでしょうが、悪猫プーはそんな声しか出せない奴なのです。
閑話休題。出かけてみると、うちとお隣の間のブロック塀の上で、案の定悪猫プーと幽霊猫タタリがにらみあっていました。悪猫プーは力強さとは無関係な意味での丸っこい体形ですが、オスであることは確認済なので、妊娠しているわけでもありません。まさに運動不足の「チー牛」っぽいやつで、幽霊猫タタリの方は、ベンガル猫的な精悍さのある奴なので、判定的にはもう決着がついたようなものですが、悪猫プーは力の差を認めていません。
ところで、私の位置は、幽霊猫タタリからは当然に視界に入るのですが、悪猫プーからすると後方になるため、振り返らないと視界には入りません。幽霊猫タタリは私を視界にとらえると明らかに動揺し、やがて去っていったのですが、そこで私はあることに気が付きました。
悪猫プーは、一度も私の方を振り返りません。タタリが去っていった方を見つめて、満足そうに落ち着いて座ってしまいました。
「…こいつ、私に気づいていない?」
そこで私は、これまで奴に虐げられ続けてきた記憶をよみがえらせ、復讐を決意しました。音をたてないようにそろそろと悪猫プーの後方に近づいていきます。やはり悪猫プーは、一度も振り返りません。猫の感覚は人間よりもずっと鋭いはずですが、どれだけどんくさいのでしょうか。それはさておき、奴の後方で、手が届く範囲まで接近すると、悪猫プーの後ろ脚付け根よりちょっと前に狙いを定め、渾身の人差し指でやつをつついてみました。
・・・すると、見事に私の指はやつの肉をとらえました。これぞ会心の一撃!
「笑六法のこうげき!どくばりがわるねこのきゅうしょにちょくげき!わるねこをたおした!」
というシチュエーションは、きっとこういうものではないでしょうか。
そして、悪猫プーは、私に反撃する気配もなく、ものすごい方向にジャンプして吹っ飛んでいきました。猫の跳躍力は凄いはずですが、猫をしてもあのジャンプ力と方向は異常で、まるで私が偶然北斗神拳に伝わる秘孔*「刹活孔」をついてしまったかのようです。刹活孔の力が、やつに一瞬の輝きのように圧倒的なジャンプ力を宿したのでしょう。あまりの気持ちよさに、つい
「♪ネコとんでった ネコとんでった ネコぶにっとやったら とんでった」
と「ネコふんじゃった」2番の替え歌を口ずさんでしまいました。
こうして私は、悪猫プーの秘孔を突き、積年の大怨に流血の裁きを与え(注・血は流れていませんが)、成敗することに成功しました。悪猫プーはその翌日以降もほぼ毎日うちの周りをうろちょろしているようですが、きっと私のA判定拳法を身をもって味わったことで、残り100年あった寿命が10年くらいに縮んだものと思われます。「刹活孔」によって削られていく寿命の減少とともに、私の眠りを妨げた罪の重さを思い知って後悔と絶望の涙を流しているに違いありません。なお、野良猫は非常に不潔なので、触った場合は即時、とても入念に手を洗うようにしましょう。
*「刹活孔」…「北斗の拳」に登場する人体の経絡秘孔のひとつ。そこを刺激すると、一時的に大きな力を引き出すものの、その代償として寿命を大きく損なうという。1980年代のNPBを代表する投手が引退直前の針治療で突いてもらったと記者会見で語った個所も、この秘孔かもしれない。。。