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1殺死刑の境界線・後編

原則が見えてくると、気になってくるのは例外です。「人数」が重要な基準とされる現実の中、「死者1名」の事案であり、かつ前編で記載した類型にも当てはまらない(そもそも殺人前科・前歴がある場合、被告人の生涯で通してみると「死者1名」とは言えなくなってくる)にもかかわらず、 死刑という究極の刑罰を科せられるのは、どのような事案なのでしょうか。

①Y.A(1987/07/17 最高裁上告棄却)

兄(無期懲役が確定)と共謀し、兄の知人をだまして大金を持参させたところをバットで殴打、殺害して現金を奪った。また、保険金をかけた妻を殺害しようとしたものの、失敗に終わった。

②S.T(1987/10/23 最高裁上告棄却)

強盗傷人の前科あり、窃盗で執行猶予中。

別の事件計画で使用する拳銃と警察手帳を奪うため、勤務中の警察官を襲って殺害。

③T.N(1989/03/28 最高裁上告棄却)

強姦致傷等の前科あり、暴力団組長。

会社経営者(無期懲役が確定)と共謀し、役員に多額の保険金をかけた上で、別々の機会に1名をロープで絞殺、1名を殺人未遂。

④K.K(2006/09/26 地裁死刑→控訴取下)

強制わいせつ致傷等の前科あり。

女児をわいせつ目的で誘拐し、その後殺害して遺体を遺棄。さらに事件後、遺族に対して被害者の写真や「今度は妹をもらう」というメールを送りつけるなどの挑発的行為を行った。

⑤J.H(2008/02/28 最高裁上告棄却)

1審無期、2審死刑。

強盗致傷前科あり、仮釈放中の犯行

通りすがりの女性を車で拉致して強姦し、その後灯油をかけて焼殺。

⑥T.K(2009/03/18 地裁死刑→控訴取下)

携帯電話のサイトで知り合った2名の共犯者とともに、通りすがりの女性を拉致して現金・キャッシュカード等を奪った後、首をロープで絞め、金槌で殴打するなどして殺害。

事件後、別の事件を計画していたが、怖くなった共犯者の1人が警察に自首して発覚。

⑦T.K(2011/03/01最高裁)

1審無期、2審死刑。

強盗傷人等前科あり。

事業資金を得る目的で、拳銃を使って1名を殺害し、その後別機会に1名殺人未遂。

⑧K.S(2013/02/14地裁死刑→控訴取下)

顔見知りの同僚を強姦後、遺体をバラバラにして遺棄。

・・・以上、8件が「死者1名」で死刑が確定した事案となります。

このうち①、③、⑦は「死者1名」以外に、既遂事件とは機会を異にする殺人未遂を含んでいます。複数殺人の場合、一時の激昂によって複数を殺害する場合と異なり、別々の機会に殺害を決意して決行する「異時機会」は非常に厳しく、まして両方強盗目的だと死刑回避はまず無理と言われています。⑦は強盗殺人既遂1名+強盗殺人未遂1名で、まさに「境界線」とされるのもやむを得ない状況です。①、③は「強盗」がつかない事案を含みますが、いずれも保険金目的なので、伝統的に強盗に近い評価をされる類型です。

「異時機会での死者1名+殺人未遂1名」に加え、すべて利欲犯というこの3件は、量的な観点で、「死刑」と「無期」の狭間としての意味を持ちます。しかし、逆に言うと、「死者1名+殺人未遂1名」の事案でこれ以外の被告人は、無期懲役以下にとどまっているということでもあります。「同時機会」の使者1名+未遂ありの案件では、死刑が確定した事案はないわけです。

残る②、④、⑤、⑥、⑧は、単独機会での死者1名での事件による死刑確定者となります。永山基準以降に死者1名の殺人事件が何件起こったのかは知りませんが、その中での量刑上の頂点に立つ5件が、これらの事件ということになります。多くの殺人事件の中で、質的な観点から「死刑」と「無期」の狭間を判断するためには、これらの事案を検討する必要があるということです。

殺害の目的は、強盗系が②、⑥、わいせつ系が④、⑤、⑧で、被害者はいずれも事件に巻き込まれる必然性など皆無な方たちばかりです。ただ、完全な無関係者が強盗やわいせつ目的で犠牲にされる案件は、この36年間で数多とあったはずです。その中で、これらの5件だけが「死刑」とされたのですから、これらの事件に内在する特別な要素は、見落とすことができないものです。

②・・・別事件で活用するため=殺傷以外に使いようがない道具を奪うという拳銃強盗=成功していれば、より凶悪な事件を起こしていた可能性大

④・・・被害者遺族を挑発するばかりか、さらなる犯行を予告するかのようなメールを送っている。

⑤・・・落ち度のない通りすがりの被害者を、生きながら焼殺するという群を抜いた残酷さ

⑥・・・闇サイトで共犯者を集めて犯行を企画した模倣性

⑧・・・落ち度のない被害者をバラバラにして捨てた

こうして並べてみると、同種の事案をめったに見ない感があるのは②、④、⑤で、⑥、⑧は同種の事案が他にもあるような気がします。しかし、死刑になっているのはこれらの案件のみ。

近年、検察官が明らかに死刑求刑の幅を広げており、特に「通りすがりの女の子に対するわいせつ目的の殺害」を伴う事案で、死者1名でも死刑求刑をしてくる傾向がみられますが、この類型での「死刑判決」が確定した事例はまだないようです。このことに対する評価は人それぞれでしょうが、弁護人の立場に立った場合、この厳然たる事実は忘れることなく、何らかの形で弁論に盛り込むべきでしょう。

また、前記5件についてさらに留意しておくべきポイントとして、最高裁で死刑が確定したのは②、⑤のみであり、④、⑥、⑧は地裁段階で死刑判決が出た後、被告人の控訴取り下げによって死刑が確定しています。つまり、控訴審の判断を受けていれば、無期に減刑される可能性はありえたかもしれません。現に、⑥と一緒に地裁で死刑判決を受けた共犯者は、高裁で無期に減刑されています(そして、その後別の強殺事件が発覚し、あらためて死刑が確定しましたが・・・)。

死者1名の凶悪事件を担当することになった場合、単なる感覚ではなく、こうした過去の先例に照らして、果たして「死刑」が求刑されうる案件なのか、また判決で言い渡されるおそれがどの程度あるのかを慎重に見極め、的確に対応しなければならないのが弁護人の使命と言えるでしょう。

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