Home » NEWS » 私と「角野さん」の取調べ修習(後編)

私と「角野さん」の取調べ修習(後編)

検察での取調べ修習でのある日、私は角野さんを立会いとして、女性被疑者を取り調べることになりました。交際関係のもつれから、被疑者が交際相手に害をなした・・・そんな事件だったと思います。

慣れない取調べ(当たり前だ)でさすがに緊張しながら、事件そのものの事情に入る前に、まず被害者との関係、動機から聞いていったのですが、これがなかなか進みません。とにかく言い訳が多くて自己正当化したがるタイプの被疑者で、こちらが聞いていることに答えない、勝手に弁解や自己正当化を始める・・・といったオンパレード。

「いや、私が聞きたいのは、そういうことじゃないんです」

と制しても、さらに次元が違うことを言いだして、話の本筋から遠ざかっていくばかり。。。気がつくと、終了予定時刻が迫っているのに、聴くべきことは予定の半分くらいしか進んでおらず、他の修習生たちは帰りの準備を始めていて、角野さんの様子をうかがうと露骨にイライラしているし、被疑者を連れてきた警察官たちは、取り調べ中舟をこいでいたのに既に目をさまし、やはり時間を気にしているし

というわけで、私の最初の取調べ修習はひどい目に遭ったわけですが、終了後、予定時間を大きくオーバーしてしまったことを角野さんにお詫びしたところ、漫画と違って他人の取調べにキレて介入なんかはしなかったこちらの角野さんの反応は、予想と大きく違っていました。

「ちょっと被疑者がかわいそうだったと思う」

・・・え?悪いのは私?

「聞いたことに答えなかったり、変な言い訳したりはしてたけど、もうちょっと優しく聞いてあげた方がよかったんじゃない?」

事件の動機となる被害者の関係について、私の受け止めは「どっちもどっち」であり、先に法に触れる攻撃行為に出た被疑者への格別の同情の必要性を感じなかった私と違い、彼女の心の琴線は大いに刺激されていたようです。

とは言われても、やはり私は本質的に被疑者への同情を感じることができません。男の学生時代から生活の面倒を見続け、男が資格を取った後も「俺は法律婚の形式にはとらわれたくないんだ」と言われて結婚を求めなかったところ、取引先の一人娘に気に入られたためにあっさり捨てられ、自殺未遂をしても冷たくあしらわれたため、生まれたばかりの男と令嬢の娘を嫉妬のあまり病院から誘拐するなどの昼メロの主要登場人物の方が、よほど気の毒です(注・この時期にはまだそのお話は放映されていません)。

そんな私に対し、彼女から突きたてられた、心の刃がこれです。

「笑六法くんは、男と女の機微が分かってないから・・・」

あれから20年くらいが経った今なお私の魂に深い傷跡を残す、myトラウマワードは、このような経緯で飛び出したのです。ええ、そうですとも。当時の私が男と女の機微に通じていたなんて主張する気は毛頭ありません。けれども、同学年の女性にここまで綺麗にスパッと真っ二つにされた思い出は、私の人生に悲しい影を落とすことになったのです!

ちなみに、彼女のこの評は、同修習地の修習生たちにも深い印象を残したようで、「男と女の機微」というパワーワードは、しばらく仲間内で流行していた気がします。今の私であれば、「自分の笑六法への恋心に気づいてよ・・・という乙女心を言外に込めたツンデレ」と脳内変換して幸せに浸るのですが、あの頃の私はあまりに若かったのです。

というわけで、思い出したくないトラウマを思い出し、鬱になったついでに久しぶりに彼女の名前を検索してみたところ、彼女も某大規模地裁の右陪席になっていたのですが、裁判長の名前にどこかで見覚えが。不安になって事務所の他の弁護士に聞いてみたところ、思いっきり裁判長との関わりがありました。。。裁判長はきっと私のことを覚えていないだろう、彼女が裁判長と世間話をするとしても、私に関わるネタに話題が及ぶことなんかないだろうとは思うのですが、たとえとても低い確率ではあっても、知らないところで笑いものにされているのではないかという不安と強迫観念におびえる羽目になりました。まったくもって、たかだか漫画でなぜこのようにつらい記憶を思い出さなければならないのか、理不尽なことこの上ありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>